忙中閑あり
「これ、とっても良かったので…」
読書家のIさんが手渡してくれた文庫本。
砥上裕將さんという若い作家が書いた[線は、僕を描く]
これから読まれる方にとっては あまりネタバレをしない方がいいと思われますので詳しいことは控えますが 一人の孤独な大学生の「再生」の物語です。
そのきっかけとなったのが「水墨画」との出会いでした。
本を渡してくれる時に Iさんに
「先生もやったことあります?」
聞かれ、「学生時代にちょこっと…」
なんて答えてしまいましたが さにあらず・・。
読んでみると 私のやったのはただ墨を使って絵をかいただけ、水墨とは全然違うことが判明。
知らないこと、多すぎです(*_*;
冒頭から大学生の「僕」の視点から 多いとも言えない、でもさまざまな人との出会い、そしてひょんな事から「水墨画」の世界に足を踏み入れていくさまが 瑞々しい文章表現で描かれ、ぐいぐいひきこまれます。
心を閉ざしていた「僕」が最後の方で
「僕は満たされている。中略 自分自身の幸福で満たされているからじゃない。誰かの幸福や思いが、窓から差し込む光のように僕自身の中に映り込んでいるからこそ、僕は幸福なのだと思った」
と思えるようになった過程・・・それはまさしく自分自身の絵を描けるようになることでした。
「技法」「上手さ」ではないのです。
「水墨画」に限らず、芸術のある意味を再認識させてくれました。
芸術だけでなく、手仕事にも通じると 私は思っています。
このデビュー作で砥上さんは[メフィスト賞]や[ブランチBOOK大賞]や[本屋大賞3位]を受賞されたそうですが その文章の表現力にびっくりしました。
[鬼滅の刃]の吾峠さんといい、人の生き様への思考、そしてそれへの表現力というのは 歳には関係ないんだ、と感心します。